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本論文は明治以後現代に至る期間における「行く․來る․いる」の尊敬表現の推移․変遷の通史的考察の 一環として、大正期(1908~1928)の使用実態を記述的に考察することに目的をおいたものである。近代以後における それぞれの尊敬表現の使用頻度の推移も語史という観点からすれば極めて重要であるが、敬語は社会の変化や人 間関係との関わり方によってその使われ方が左右される語であるため、使い手と表現主体との関係、あるいは話し手と 聞き手との関係等の所謂敬語事実の考察が重要である。つまり、各々の尊敬表現の変遷に加えて、その使われ方や 語の位相差等の研究が求められる。 考察の結果以下の点が確認された。 ①本動詞․補助動詞とも「いらっしゃる」が最も多く、本動詞は70%、補助動詞は82%を占めている。それまでの 主流であった「おいでだ․おいでなさる․~なさる」に代替するものと見做される。使い手は圧倒的に女性が多く、年 齢も多岐に亘っている。下層での使用は女中の使用が多く、主従関係における上下関係が表現選択の要因になって おり、依然、身分的な社会階層が残っている。また、上層の教養のある若い女性の間での使用が際立っており、この時 期を境に女性のインテリ階層の使用が高まるものと推測される。 ②明治20~30年代における考察で本動詞、補助動詞それぞれ19%、25%の使用率が見られた「おいでなさる」 は、小論における考察対象作品中には、1例のみ抽出された。尤もこれは考察対象作品における結果であり、当時の 言語生活において「おいでなさる」が使用されていないとは断言できない。しかし、同じく明治20~30年代に多く用い られていた「おいでだ」が、大正期を境に衰退していることに見合わせると、「おいでなさる」も同じ道を辿るものと推 測される。使い手は、性別、年齢の区別なく広く用いられているが用法は命令形が多い。特に親族間や親しい間での 軽い敬意をもった命令形用法が目立つ。江戸時代には高い敬意があったとされる「おいでだ」に丁寧語化の兆しが 窺える。 ③「レル型」敬語は男性の使用例が多く、本動詞用法の「いる」、補助動詞用法の「~いる」に多用されて いる。女性の使用例は、唯一『友情』の杉子が「ゆかれる」を用いている。しかし、「行く․來る․いる」における 尊敬表現としての使用は総体的に数が少なく、現代のように多用されるまでにはまだ至っていない。今後その勢力拡大 が興味深い。
목차
1. はじめに
2. 研究目的と方法
3. 作品と時代背景
4. 用例分析
4.1 本動詞における尊敬表現
4.2 補助動詞における尊敬語表現
5. おわりに
參考文献
