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文学的な出発期から早くも二元論的な両性対立の世界に深い関心を見せていた三島が、本格的にその構図を作品の中軸に据えたのが『禁色』である。『禁色』以前は両性対立というよりは、強力な母系社会とも言える女性的原理の下で、男性(肉体)に対する女性(精神)の一方的な支配が目立つばかりであった。それが一転して、この『禁色』では初めて男性側が女性たちに対して積極的に働きかけるようになり、やっと両性対立の世界らしい形が出来上がったのである。  三島は『仮面の告白』から二年も経たないうちに『禁色』に取りかかっている。『仮面の告白』と同じく同性愛をテーマにしていながら、自伝性の強い『仮面の告白』とは異なり、純粋なフィクションとして、遥かに自由かつ奔放な人間関係を見せる『禁色』には、『仮面の告白』には見られない近親相姦的な人間関係が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。つまり『仮面の告白』で自伝の形を借りて〈私〉の精神分析をおこなった三島は、今度は三人称で書いたフィクションの世界へ自己を埋没させようと試みたのである。エロティシズムを主調音にした初期の三島文学はこの『禁色』なしには完成されないのである。しかも、女性的原理に対する攻撃の姿勢を前面に持ち出した最初の作品として、その成敗の如何に拘わらず、『禁色』は三島文学において大事な節目になる作品と言えるのである。  本稿ではこのような『禁色』に登場する人物たちのうち、男性側だけに焦点を絞って、家族的な人物構成という観点から考察してみた。