초록 열기/닫기 버튼

早稲田大学服部文庫に所蔵されている、南郭自筆とされる『朝鮮語訳』の、「小説 三」「崔孤雲伝」巻末に添えられている、明らかに幼時から朝鮮語を学び、「崔孤雲伝」を副読本のようにして慣れ親しんできた底本筆者の識語と、それに添えられた南郭識語を再検討した。延享通信使に随行した対馬藩所縁の者が所持していた書という南郭識語から、宗家文書により延享通信使で随行した対馬藩通詞の人名を確認し、渡嶋源右衛門という名を見出した。宗家文書によれば、渡嶋源右衛門は渡嶋次郎三郎親保の延享時の名前かと推測される。「崔孤雲伝」もしくは「崔忠伝」に言及している対馬藩関係者には、雨森芳洲と小田幾五郎がいるが、雨森芳洲は幼時から朝鮮語を学んだ者ではなく、本写本底本の識語を書いたとするにはふさわしくない。小田幾五郎は時代的に後の人で、これもあたらない。今のところは、「崔忠伝」の翻訳書『新羅崔郎物語』の作者渡嶋次郎三郎親保をおいては、底本筆者に擬するべき人物はいない。寛延三年頃、唐音に関する旺盛な関心を見せていた服部南郭が、諺文で書かれた三冊の書を、本誓寺知立上人から借覧して写したのが、早大本『朝鮮語訳』である。同じく服部文庫に所蔵されている『〔諺文語彙備忘〕服部元喬筆』と仮題された書は、「崔孤雲伝」本文の諺文と、それに対応する日本語訳の分類整理を服部南郭自身が試みた書であるが、冒頭部分のみで作業は中断している。朝鮮語に関心を持ちながらも、遂に、通暁することが出来なかったのである。本書により対馬藩内での朝鮮語学習の実際を推し量ることが可能であり、またハングル本「崔忠伝」の新出本として、しかも、従来のそれとは違い、東京大学小倉文庫本所蔵の中村庄次郎書写の『崔忠伝』と同様、対馬藩由来の書として貴重なものである。さらには、渡嶋次郎三郎親保の『新羅崔郎物語』成立過程を考える上でも重要な位置を占める。しかし、早大服部文庫本『朝鮮語訳』は未だ翻刻本がない。斯界の研究をさらに活発にさせるためにも、厳密なる校訂を経た翻刻本作成が急務である。